東京高等裁判所 昭和25年(ラ)67号 決定
本件抗告の要旨は、相手方は土木建築業を目的とする株式会社であつて、抗告人等は相手方会社の従業員で同会社従業員組合の組合員であつたが相手方は昭和二十四年十月十一日附で抗告人等を解雇する旨の意思表示をなした。しかしながら
(一) 相手方は右解雇に際し解雇予告手当を同時に支払うことなく、同月十四日から支払う旨を通告しているから右解雇の意思表示は労働基準法第二十条に違背し無効である。また、
(二) 相手方は経済事情の変動による採算上の損失を補填することを理由として解雇の意思表示をなしたのであるが、これは相手方会社の就業規則第五十三条に違背するから右意思表示は無効である。
よつて抗告人等は右解雇無効確認の訴を提起するに先ち被解雇者として被る損害を避けるため原審に右解雇の意思表示の効力を停止する旨の仮処分命令を申請したところ、右申請は却下されたが、右却下決定は不当であるからこれが取消を求めるというのである。
案ずるに(一)労働基準法第二十条第一項本文には「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない、三十日前に予告をしない使用者は三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。」と規定されているのであるから予告または予告手当を欠く解雇の意思表示はその効力を生じないものと解すべきであるけれども、本件解雇の意思表示(疏甲第十号証)においては相手方の主張の全趣旨に徴するも予告手当の支払を回避したものではなく、その意思表示が到達するのに数日を要しまた支払金の準備に数日を要する関係から現実に予告手当支払の期日を特に指定して通告したことの疏明が得られるから右解雇の意思表示は予告手当の提供がなされたときその効力を生ぜしめることを目的としたものであつてこのような解雇の意思表示は労働基準法の右規定に牴触しないものと解するのが相当であり、而して抗告人が予告手当の提供を受け、これを受領したことは後記認定の如くである。従つて右解雇の意思表示が右規定に違背し無効であるとする抗告人等の主張は理由がない。
(三) 相手方会社の就業規則(疏甲第三号証)第五十三条には「従業員が左の各号の一に該当するときは三十日前に予告するか、または三十日分の平均賃金を支給して解雇または解傭する。但し天災事変その他やむを得ない事情のため事業の継続が不可能となつた場合または従業員の責に帰すべき事由に基いて解雇または解傭する場合においてはこの限りでない。
一、精神若しくは身体に故障があるか、または虚弱老衰若しくは疾病のため就業ができないと認めるとき
二、前号に準ずるやむを得ない事由のあるとき云々」
と規定されており、また同規則第九十一条には「第二十四条、第五十三条、第八十九条第五号の規定の適用については大林組従業員組合と協議の上これを行う」と規定されているが疏乙第五号証、同第十三、第十四号証、同第十六乃至第二十号証と相手方の主張の全趣旨を参酌すれば、相手方会社は昭和二十四年九月頃その企業不振に陥りその経営を維持するためには従業員を整理する以外に方法がない状態となつたので、同月中従業員組合とこれにつき協議を重ねたが、整理の員数、基準について意見の一致を見るに至らなかつたこと、しかるに相手方会社においては方策の実行を徒らに遷延することを許されない事情にあつたので昭和二十四年十月中前記のように抗告人等及びその他の従業員に対し解雇の通知をなしたところ、その後抗告人等は同月中に、相手方会社に退職願を提出し相手方会社から提供を受けた予告手当を受領したことの疏明が得られる、尤も抗告人荒井良治、同熊谷俊男同糟谷偵一はいずれもその退職願については関知しない旨を主張するけれどもその疏明を得しめるに足る資料がないから右主張は採用し難い、従つて相手方会社と抗告人等間の雇傭関係は合意上こゝに終了するに至つたものと認むべきであるから、抗告人等の右解雇の意思表示が就業規則に違反し無効であるとの主張も採用することができない。しからば右解雇の意思表示の効力の停止を目的とする抗告人等の本件仮処分申請は結局理由がないことに帰するものというべく、これと同趣旨の原決定は相当であつて本件抗告は理由がない。
よつて主文のとおり決定をする。
(裁判官 松田二郎 河合清六 岡崎隆)